6月3日、梅雨の谷間。朗らかな陽光のなか、 「大阪芸術大学歌舞伎鑑賞教室」に映像専攻の1年生と一緒に行ってきました。
 日本の映像文化と歌舞伎はもともと関係が深く……といった前置きから スムーズに話を進めて行きたいわけですが、恥ずかしながらこの私、 歌舞伎を鑑賞するのは小学生以来、しかもその記憶もほとんど京都南座の 中にあったおでん屋の美味しさに占められているという体たらくでございます。 学生を歌舞伎鑑賞へといざなう解説者としては、 何の役割も果たさない私ですが、この教室には心強い手助けがありました。 中村又之助さんによる歌舞伎初心者への解説がそれ。 私にとっても学生にとっても、歌舞伎鑑賞への最善の入口となりました。 まず歌舞伎における「立て」についての解説から。 主に映画との比較で話されて、納得することしきり。 映画では剣戟のシチュエーションを「殺陣」と書くのに対して、 歌舞伎では「立て」と表すのだそうです。そして、その違いは表記の違いだけではなく、 その内容にも関わっていて、歌舞伎においては映画のようなリアルさよりも、 様式美を重んじるとのことでした。なるほど。 その後、学生さんによる実演が続きました。終始和やかな雰囲気。 次に本日の演目である「仮名手本忠臣蔵」の解説。 いわずとして知れた日本のナショナル・アンセム、「忠臣蔵」ですが 歌舞伎(大本は人形浄瑠璃)における特殊な事情について話されました。 「仮名手本忠臣蔵」は、かの有名な吉良邸討入りから46年後元禄15(1702)年に 初演となった演目。今に置き換えると、46年前は1965年だから、まだ実際の事件が 結構生々しい記憶を呼び覚ます状況のなかで上演されたんですね。 幕府批判を考慮したために、時代は室町に、そして人物名称も架空名へと変えられています (例えば、大石蔵之助は大星由良之助というように) だから「仮名手本」は江戸時代の時代劇なわけで、それを現在からみるとなると、 二重の時代劇性があるというわけですね。クラクラします。 また、「忠臣蔵」のハリウッド映画化(キアヌ・リーヴス主演)という話もされていましたが、 そのとき私の脳裏にずいぶん昔にみた「ベルリン忠臣蔵」というドイツ映画が浮かびました。 本当に「忠臣蔵」映画というのは、名作からキワモノまで、たくさんあるなとしみじみ思いました。 閑話休題。中村又之助さんの解説も終わり、いざ演目へ。 「天川屋義平内の場」。「仮名手本忠臣蔵」の十段目にあたります。 討入りに必要な武具を調達する商人・天川屋義平(片岡我當さんが演じておられます)が、 秘密を守るために妻と離縁し、また大星由良之助が忠誠を確かめるために 仕掛けるトラップ(わな)をくぐり抜けるという内容です。 妻子とのあいだのメロドラマ。由良之助(赤穂浪士たち)との間のホモソーシャルな絆。 双方の要素が秘密保持というサスペンスを結節点として描かれていて、 なるほど伝統的な物語の洗練、そして強さに感嘆しました。 最後の赤穂浪士たちとのやりとりにはグッ ときます。 解説によれば、上演することも稀な場面だそうですが、グッドでした。 学生に感想を聞いてみると、ゆっくりとたゆたうように流れる歌舞伎特有のリズムや 言葉遣いに難義したようですが、舞台セットの作り込みの細かさや音楽のタイミングなど、 得るものも大きかったようです。良い経験となりました。 おさらば! Saravah! 投稿:映像専攻教員 橋本淳 |